一枚の白い紙、untitled 3
彼の手の指の腕の美しさといったらなかった。
こんなに美しいものが生身で動いていることは不自然だというほど美しかった。長い指、まっすぐに伸びてはいなくて少し曲がっている、骨ばった、長い指。緑色で手の甲に浮き出ている静脈、いつも油がたっぷりさしてあるようななめらかにまがる関節
おおくの女が知らず知らずにその手に惹かれていった。彼の手で触られたら、包まれたら、どうなってしまうんだろう。女たちをそんなことを考えながら、彼の手に握られている絵筆にすら嫉妬を覚えたりする。
そんな彼の手は、キャンバスの上をひたすらに滑る。その手に握られた絵筆は白い絵の具をキャンバスに塗りたくる。
白くて甘いクリームがステンレスのボウルの中でかき混ぜられている。
家庭科室でマコトは生クリームを泡だて器で混ぜている。生クリームを混ぜることは彫刻をつくることのようだ。一定の決まったリズムでかき混ぜる。するとそこにはとても綺麗な形が出来あがる。
かき混ぜるのをやめてしまえばそれは少しして消えてしまう。何事もなかったかのように、生クリームはまたもとの平たい液体へと戻っている。かき混ぜているときのあの綺麗な形のまま永遠にクリームだけの時間がとまってしまえばいいのにとマコトは一瞬考えてやっぱりその考えを改める。
それではきっとうまくはいえないけれど綺麗ではないんだろうな。むしろいやらしく、醜いのかもしれない。
そんなことを考えながらマコトは生クリームをあわ立てる。リズムを乱さずあわ立てる。あわ立てる音が家庭科室の静かな空気のなかに入っていく。あまりにリズムが正確すぎるので、メトロノームさえ彼のリズムにはまけてしまう、彼が生クリームを泡立ててくれさえすれば、音楽のリズムは絶対にくるわない。
そうして正確なリズムであわ立てていると生クリームは液体と固体のあいだみたいなものになる。
どろっとしててもだめ、かたすぎてもだめ。ちょうどあいだのところあたりの具合がいい。
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